春に花を咲かせる樹木のほとんどは、開花する前年の夏から秋までに蕾(つぼみ)を作ります。
梅の蕾は7月下旬ころに作られます。このときに作られる蕾は冬の寒さに耐えるためにつくられる越冬芽の中に包み込まれて春を待つのです。
またときめかす花梅のかをり~宮澤賢治の詩から
立春を過ぎ、いよいよ梅の花の季節がやってきました。いつものように宮澤賢治の詩の中から、梅の登場する詩を探してみました。
賢治の作品に梅が登場することは少なく、特に花としての梅が登場するのは『春と修羅 第二集』の「函館港春夜光景」という詩だけではないでしょうか。その最後の方に「またときめかす花梅のかをり」とあります。
この詩には柳、梅、桜という3種の樹木が出てきます。賢治が居た岩手県では、これらの花の咲く時期はいずれも3月から5月でしょうか。この詩の日付は1924.5.19となっています。
途中に出てくる七五調の歌のようなリズムや、田谷力三や高田正夫という個人名が登場しているのもおもしろい詩だと思います。
函館港春夜光景 地球照ある七日の月が、 海峡の西にかかって、 岬の黒い山々が 雲をかぶってたゝずめば、 そのうら寒い螺鈿の雲も、 またおぞましく呼吸する そこに喜歌劇オルフィウス風の、 赤い酒精を照明し、 妖蠱奇怪な虹の汁をそゝいで、 春と夏とを交雑し 水と陸との市場をつくる ……………………きたわいな つじうらはっけがきたわいな ヲダルハコダテガスタルダイト、 ハコダテネムロインディコライト マヲカヨコハマ船燈みどり、 フナカハロモエ汽笛は八時 うんとそんきのはやわかり、 かいりくいっしょにわかります 海ぞこのマクロフィスティス群にもまがふ、 巨桜の花の梢には、 いちいちに氷質の電燈を盛り、 朱と蒼白のうっこんかうに、 海百合の椀を示せば 釧路地引の親方連は、 まなじり遠く酒を汲み、 魚の歯したワッサーマンは、 狂ほしく灯影を過ぎる ……五ぐゎつははこだてこうゑんち、 えんだんまちびとねがひごと、 うみはうちそと日本うみ、 れうばのあたりもわかります…… 夜ぞらにふるふビオロンと銅鑼、 サミセンにもつれる笛や、 繰りかへす螺のスケルツォ あはれマドロス田谷力三は、 ひとりセビラの床屋を唱ひ、 高田正夫はその一党と、 紙の服着てタンゴを踊る このとき海霧ガスはふたたび襲ひ はじめは翔ける火蛋白石や やがては丘と広場をつゝみ 月長石の映えする雨に 孤光わびしい陶磁とかはり、 白のテントもつめたくぬれて、 紅蟹まどふバナナの森を、 辛くつぶやくクラリオネット 風はバビロン柳をはらひ、 またときめかす花梅のかをり、 青いえりしたフランス兵は 桜の枝をさゝげてわらひ 船渠会社の観桜団が 瓶をかざして広場を穫れば 汽笛はふるひ犬吠えて 地照かぐろい七日の月は 日本海の雲にかくれる (詩・宮澤賢治「函館港春夜光景」(『春と修羅 第二集』より))
唐梅(トウバイ)
唐梅(とうばい) 学名:Prunus mume ' Toubai ' 英名:Japanese apricot ' Toubai ' 別名:好文木、ムメ、花の兄 唐梅は野梅系・緋梅系・唐梅性に分類され、「一重唐梅」「八重唐梅」とがあり、梅の品種では中輪種になります。 唐梅をカラウメと呼ぶと蝋梅(ロウバイ)の別名になります。 開花期は1月中旬から2月上旬ころになります。 梅の花は甘い香りが風に乗って拡がってくるのがうれしいですね。蕾がたくさん残っている頃の方が綺麗だと思ってしまうのは、桜と違って花びらが散らずに枯れて行くからでしょうか? これから次々に梅の花が咲き出します。梅の花の季節はこれからが本番です。